サイトナの作文れんしゅう

毒にも薬にもならないようなことをつらつらと書いたエッセイのようなものです。

おにぎりあたためますか

札幌のコンビニでおにぎりを買ったときのことだ。
おにぎりあたためますか
店員さんにそう聞かれたのだ。
「お、おにぎり、あ、は、はい」
とりあえず温めてもらうおれ。
神奈川ではそんなこと聞かれたことなかったぞ、と思いつつ、お弁当を温めるのと同じ感覚なのかな、と電子レンジの中でオレンジ色のスポットライトに照らされるおにぎりを見つめながら、ぼんやり思った。
「お待たせしました」
ほかほかになったおにぎりを渡された。そのままで食べるよりもなんだかおいしそうな気がした。
うちに帰って、温められたおにぎりを食べると、コンビニの惣菜特有の食品添加物の薬っぽさが少し薄れたような気がした。ごはんもふっくらしている。
なるほど、レンジで温めてもらうおにぎりもおいしいじゃないか。
ただ、ああ、のりのパリパリさは失われてしまうのだった。しなしなになってしまっている。
コンビニおにぎりの武器ともいえるパリパリのりをとるか、ふっくらごはんを取るか、コンビニでおにぎりを買うときは、いつもこの厳しい選択を突きつけられることになるのだ。

ところが、関東ではこの質問を聞いたことがない。
新宿でも、埼玉でも、千葉でも、おにぎりを買ったら、そのまま袋に入れられて、はい、と渡されてしまうのである。
忙しいからかな、冬じゃないからかな、と思っていたが、店が空いている状況だろうが、冬になろうが、メロンパンとボールペンもついでに買おうが、いっこうに聞かれる気配はない。
自分で言ってみた。
「あ、すいません、温めてください」
「何を温めますか」
何をって、ボールペンを温められても困る。
「あ、おにぎりです」
おにぎりを電子レンジに入れ、あたためボタンを確認する店員さん。これはここでいいんだよな…、みたいに考えているのがここまで伝わってきます。そんなに珍しいことなのかい。
これで、あのふっくらおにぎり(ただしのりはしなしな)が手に入るのだ。
おにぎりを温めるのって関東の習慣にはないんだな、と実感した次第であります。
でも、青森でも聞かれたことないぞ。弘前駅のコンビニでおにぎりを買ったけど、はい、とそのまま袋に入れられてしまい、少し困ってしまったもの。お願い、ぼくのお願いに気づいて。
「一般的に聞かれる札幌の方が珍しいんだって、私、やっと気づいたの、聖司くん」
「雫、大好きだ」
うん、突然ジブリっぽくなる必要はなかったね。全然関係ないね。

一度、試してほしいんだよなあ、おにぎりあたため。
絶対おいしいから。
損しないから。
損したらまた冷蔵庫で冷やせばいいじゃん。しなしなのりで、しかも冷めたおにぎりになるから。
「それじゃおにぎりが全然おいしくないんだって、私、やっと気づいたの、聖司くん」
「雫、大好きだ」
うん、だからジブリっぽくなる必要はなかったね。全然関係ないね。

ぜひ一度お試しあれ。