サイトナの作文れんしゅう

毒にも薬にもならないようなことをつらつらと書いたエッセイのようなものです。

朝の通勤ラッシュでごまポテトはつぶれるか

毎朝、埼玉県の和光市から御徒町まで電車で通勤していた。ちなみに御徒町駅ってのは、上野駅のひとつお隣の駅です。
東武東上線と山手線を乗り継ぎ、毎日埼玉の県境を越えて東京へと向かっていたおれ。
埼玉県から東京に通勤している人はかなり多く、とても混んでいる。電車がね。だれもアスパムが混んでる話なんかしてないよ。どこそれ。あ、アスパムって青森にある三角形の建物で中は観光物産館です。しかもそんなに混んでないです。

どのくらい混んでるのだろう。
よく乗車率150%とか、200%とかで表されてるけど、いまいちピンとこない。無理なく車両に乗れる人数を100%として、どれだけ人が乗ってるか、てことなのだろうか。
じゃあ、それは人数で決まるのか。同じ人数でも、働くおじさんお兄さんお姉さんが100人乗ってる車両と、曙が100人乗ってる車両じゃ混み具合が全然違うと思うんだけど。曙乗りすぎ。
そこで混み具合をわかりやすく調べることにした。通勤カバンの中に、近所のスーパーいなげやで買った人気のパン、ごまポテトを入れておいて、人ごみでどれくらいつぶされるかで混み具合を測ろうというものだ。

まずは計測当日、朝食用に買ったごまポテトを食べるのを我慢し、通勤カバンへ入れる。もちろんまだつぶれていない。
東武東上線和光市駅に電車が到着する。既に人がぎゅうぎゅう乗ってる。
いざ出陣、ごまポテト。
いつもは網棚の上とか足元に通勤カバンを置くのだが、今日はしっかり手に持って、ごまポテト臨戦態勢だ。
前に立ってるおやじが背中で押してくる。おれも苦しいが、ごまポテトも苦しい。でもいつもより心なしか混み具合が少ない気がする。せっかく計測するんだから少しはごまポテトくんにはつぶれてもらいたい。がんばれ。
電車が池袋に到着。ここから山手線に乗り換えだ。
池袋に大量に吐き出される人ごみに混じり、おれも池袋駅構内へ。そして通勤カバンの中身を確認。ごまポテト、やや疲れ気味だが、形状は維持している。うん、おいしそうだ。
今度は、山手線の池袋駅にやってくる電車に乗る。
実は山手線の池袋から東京・上野方面へ向かう電車はやや空いているのである。品川方面からやってくる電車は、大半の人が新宿や池袋で降りてしまうので、池袋から東京・上野方面へ行く分には空いてる、てことだ。それでも、日暮里や上野では毎朝大量に人が乗ってくるので、そこが今回のポイントだ。ぽいん。
池袋乗車時では、余裕のごまポテトだ。大塚、巣鴨駒込、余裕余裕。
日暮里でどかんと乗ってきた。ドアが閉まるまで人に押し出されないように踏ん張るおじさんがいるくらいの混み具合。ごまポテト、苦しい。
上野では人がかなり降りるのだが、降りた人数分また乗ってくる感じだ。ごまポテトくん最後の難所だ。ただ、前にいるのがおじさんでなくお姉さんになったから、ごまポテト、ちょっとうれしいぞ。何言うてるか。
御徒町に無事到着した。いや、無事かどうかはまだわからない。通勤かばんを開け、ごまポテトくんの生存を確認する。あれだけ押された割には、やや少しつぶれたものの、ほぼ元の形を維持していた。おー、すごいぞ、ごまポテト。

その後、仕事場で一仕事終えたごまポテトくんを食べる。生地がやや固めだ。フランスパンのような生地。もしかしたらごまポテトくんはいなげやのパンの中では強いやつだったのかもしれない。
結論としては、東武東上線と山手線の朝のラッシュはかなりのものではあるが、ごまポテトくんをつぶすほどではなく、また、いなげやのパンの中で、ごまポテトくんはかなり強い方であるということがわかった。
なんだこの結論。まあ、そういうことだ。ごまポテト、ばんざい。

おにぎりあたためますか

札幌のコンビニでおにぎりを買ったときのことだ。
おにぎりあたためますか
店員さんにそう聞かれたのだ。
「お、おにぎり、あ、は、はい」
とりあえず温めてもらうおれ。
神奈川ではそんなこと聞かれたことなかったぞ、と思いつつ、お弁当を温めるのと同じ感覚なのかな、と電子レンジの中でオレンジ色のスポットライトに照らされるおにぎりを見つめながら、ぼんやり思った。
「お待たせしました」
ほかほかになったおにぎりを渡された。そのままで食べるよりもなんだかおいしそうな気がした。
うちに帰って、温められたおにぎりを食べると、コンビニの惣菜特有の食品添加物の薬っぽさが少し薄れたような気がした。ごはんもふっくらしている。
なるほど、レンジで温めてもらうおにぎりもおいしいじゃないか。
ただ、ああ、のりのパリパリさは失われてしまうのだった。しなしなになってしまっている。
コンビニおにぎりの武器ともいえるパリパリのりをとるか、ふっくらごはんを取るか、コンビニでおにぎりを買うときは、いつもこの厳しい選択を突きつけられることになるのだ。

ところが、関東ではこの質問を聞いたことがない。
新宿でも、埼玉でも、千葉でも、おにぎりを買ったら、そのまま袋に入れられて、はい、と渡されてしまうのである。
忙しいからかな、冬じゃないからかな、と思っていたが、店が空いている状況だろうが、冬になろうが、メロンパンとボールペンもついでに買おうが、いっこうに聞かれる気配はない。
自分で言ってみた。
「あ、すいません、温めてください」
「何を温めますか」
何をって、ボールペンを温められても困る。
「あ、おにぎりです」
おにぎりを電子レンジに入れ、あたためボタンを確認する店員さん。これはここでいいんだよな…、みたいに考えているのがここまで伝わってきます。そんなに珍しいことなのかい。
これで、あのふっくらおにぎり(ただしのりはしなしな)が手に入るのだ。
おにぎりを温めるのって関東の習慣にはないんだな、と実感した次第であります。
でも、青森でも聞かれたことないぞ。弘前駅のコンビニでおにぎりを買ったけど、はい、とそのまま袋に入れられてしまい、少し困ってしまったもの。お願い、ぼくのお願いに気づいて。
「一般的に聞かれる札幌の方が珍しいんだって、私、やっと気づいたの、聖司くん」
「雫、大好きだ」
うん、突然ジブリっぽくなる必要はなかったね。全然関係ないね。

一度、試してほしいんだよなあ、おにぎりあたため。
絶対おいしいから。
損しないから。
損したらまた冷蔵庫で冷やせばいいじゃん。しなしなのりで、しかも冷めたおにぎりになるから。
「それじゃおにぎりが全然おいしくないんだって、私、やっと気づいたの、聖司くん」
「雫、大好きだ」
うん、だからジブリっぽくなる必要はなかったね。全然関係ないね。

ぜひ一度お試しあれ。

コワモテおじさんのバンソウコウ

髪を切りに行こう。
そう唐突に思いついた土曜の午後。
でも、流山に引っ越してきてから、髪を切りに行くのは今日が初めてだ。
「どの床屋さんに行こうか」
初めてなので行きつけの床屋がまだない。ただ、候補は二つあった。毎日の通勤途中に、うちの近くに二軒の床屋が並んでいるのを見ていて、それを覚えていたのだ。そのうちのどちらかに行こうと思い立った。

早速行ってみた。
まずは一軒目。入り口に料金表が貼ってあった。
「カット 4000円」
所持金が3000円だったので、これだと髪を切ってもらったはいいが、その後全速力で逃げなくてはいけない。引っ越してきて早々に町のお尋ね者になりたくないので却下した。
で、お隣の二軒目。こっちは値段がわからない。時価なのかもしれない。
入ってみた。夫婦でやってる床屋らしい。お客さん1人に夫婦、そしておそらくその夫婦の子供と思われる子供がたくさんいた。いや、夫婦の子供じゃない子供も混じっているかもしれないが、それはおれの知るところではないのだよ。
「カットできますか」
「うちは完全予約制なんですよ。すいません」
断られてしまった。一見さんお断りの床屋だったのだ。
おれはそのまま、夢破れた敗残兵のようにすごすごと外に出ようとしたら、床屋のドアが思ったより重く、閉めたドアに指を思いっきり挟めてしまった。
痛い。
すごく痛い。
歩いていてもしばらくジンジンと痛み続けていた。ふと、足元を見ると、赤い血が指からぽとっと滴ってきた。
お、出血大サービスだな、なんてあなたも言ってるんじゃないの。言ってないか。そうか。

ただ、血は出てきても、髪は伸びたままなので、さらに床屋を探して歩いた。数歩歩いては自分の指の血を吸い、また数歩歩いてはまた指の血を吸う。さっきとはまた違う意味で町のお尋ね者になりそうだったが、その前に別の床屋を見つけることができた。
1000円カットだ。いや、正確には1050円カット。
おれは普段は1000円カットで髪を切ることが多いので、慣れ親しんだところへ来たような感じだった。
店に入ると、坊主頭で体格のよいおじさんがやってきた。
「休みの日は床屋さんで、平日は組長をやっています」と言われたら信じてしまいそうな外見だ。言わなかったので安心したけど。
そして、さして待たされることもなく、カットされるおれ。ドスではなくてちゃんとはさみを使っていたので一安心だ。カットが終わったら掃除機で切った髪の毛を吸われて、何事もなく終了。
そして会計のとき、おれが1000円を差し出そうとすると、そのコワモテのおじさんはおれの流血中の指に気づいたのだった。
「小指、大丈夫ですか」
てっきり「小指、つめましょうか」と聞かれたのかと思ったが、今おれの手にはちゃんと小指がついているので違ったと思う。おじさんはコワモテの顔だが、おれの指を心配してくれたのだ。
コワモテのおじさんは店の奥からバンソウコウを持ってきて、おれの指に貼ってくれたのだ。これが部活の女子マネージャーとかだったら惚れてしまうんだろうなあ。バレー部とかサッカー部あたりの。何を考えているんだか。
まあ、でもおじさんは優しいけどコワモテだったので、惚れることもなく、床屋を出た。

でも、世の中捨てたものじゃないなあ、とコワモテのおじさんの貼ってくれたバンソウコウを見て思ったのだった。
帰り際、指の無事を確かめるために、ゲームセンターによってバーチャファイターをやってみた。よし、ちゃんと技が出せるぞ、うは、アイリーンちゃん(キャラの名前)かわいい、て、ばか。なにやってるんだよ。小指つめられてもおれは知らないよ。

乳酸菌が死んでる!

高校生のとき、乳酸菌入りの飲み物が好きで、よく飲んでいた。
今でもリッター100円ちょっとのヤクルトのような何かを飲んでる。ヤクルトはちょっと高級品なのでね。
乳酸菌はお腹の中でなにやらいろいろと善行をしてくれているらしい。緑の募金に寄付したり、電車で席を譲ったり、そういうことではないか。とにかく、お腹にとてもいいらしい。

最近のヨーグルトを見てみると、お腹にできるだけ多くの乳酸菌君が到着できるようにいろいろと工夫がされている。胃で死なない乳酸菌、腸までカプセルに乗っていく乳酸菌君までいる。すごい。
言い方を換えれば、乳酸菌君をお腹の中にできるだけ多く派遣しなければならないようである。お腹政府の「お腹防衛のためにはより多くの乳酸菌部隊が必要である」という要求に、乳酸菌君たちは健気に応えているのである。偉いねえ。

ところが、そんなお腹政府に真っ向から逆らう部隊がいた。
アクアブルガリア飲むヨーグルトである。
乳酸菌飲料(殺菌)
パックにそう表示されていた。
(殺菌)て、死んでるんかい、乳酸菌。
高校の自動販売機で売っていたのでよく飲んでいた。飲むヨーグルトにしてはさっぱりしている。というかさらっとした感じだった。さわやかな味が売りらしい。
アクアブルガリアはさわやかさを出すために、乳酸菌君を犠牲にしたみたい。
(殺菌)だ。
でも乳酸菌飲料と言い張ってるのがすごいと思う。まあ、確かに入ってはいるんだけどね。

それでもおいしいから飲んでしまっていたのだった。他の乳酸菌君の同志たちが、アクアブルガリアをおいしく飲んでいるおれをよく思ってないかもしれない、と思うのだった。よくもわれわれ同志を殺菌したものをおいしそうに飲んだな、とお腹の中で謀反を起こされて、お腹の弱いおれははかなく戦場の露と消えてしまうのである。乳酸菌君、ごめんなさい。
しかし、乳酸菌君を何とかして残そうとする乳製品界の流れの中で、乳酸菌よりもさわやかさをとるアクアブルガリアは少しかっこいいなあ、と思うのだった。
昨今の健康ブームに流されずに「らしさ」を貫くアクアブルガリア
これからもアクアブルガリアにはさわやかでいてほしいと思う。最近その姿を見ないけど。

滞在時間10分!小樽の旅

高校3年の冬、おれは大学の入学試験を受けるために、住んでいた札幌から、学校のある青森県弘前市へと向かった。
千歳空港から青森へは飛行機を使ったのだった。当時は乗れたんだねえ、飛行機。
今も空を飛びさえしなければ乗れるのだけど。

そして、受験を終え、札幌に帰ることに。
再び山の中の青森空港から千歳空港へ飛んだ。青森から千歳までの所要時間はたったの30分。なので、千歳、青森間では飛行機が上昇したと思ったらもう下降してしまうのである。水平飛行時間はなしだ。
上昇、下降中は電子機器は使えないし、シートベルトが外せないのでそもそもトイレにも行けないのである。千歳、青森間を飛行機で行こうとしている人はトイレを済ませておきましょうね。余計なお世話か。

上昇し、下降して千歳に着いた。
空港から快速エアポートで札幌に向かう。
札幌に着いた。
さて、家に帰るとしよう。
このときおれは有益な情報を得ていた。
札幌駅から自宅への移動は、普段は地下鉄東西線を使っていたが、バスを使えばうちのすぐ近くまで行けるという。そうそう、円山公園の大きい鳥居の近くのあのバス停のことだよ、あなたも物知りだねえ。
バスターミナルの4番乗り場に来るバスはどれもうちの近くのバス停にとまるらしい。

たまにはバスもいいか、とバスターミナルへ向かう。程なくしてバスがやってきた。
バスに乗り、揺られながら窓の外を流れる風景を眺めていた。
しばらくの間ぼうっとしていると、車窓からの風景がいつもと違ってきていることになんとなく気付いた。が、特に気にすることもなく、そのままぼうっとしていた。
しかし、バスは高速道路に入っていったのである。
おわ。さすがに気にした。
ど、どこに連れてくつもりだ。

どうやら小樽行きの高速バスに乗ってしまったようなのだ。バスはそのまま高速道路を飛ばし、小樽駅に着いた。そりゃ着くよ、小樽行きに乗ったんだもの。運賃は1040円。
自分はいないことにしてこのまま札幌に戻ってくれてもいいんですよ、運転手さん、と思ってみたが、運転手さんが反応してくれるわけもなく、おとなしく運賃入れにお金を入れたのだった。1040円。1040円だったよね、運賃。金額が違っていたらすいません、中央バスさん。

小樽という町には好印象を持っていた。海があるし、小樽運河やオルゴール館、水族館などいろいろ見たいところがたくさんある場所だった。でも、今は、札幌へ帰して。
駅の時刻表を見ると、札幌行きの電車が10分後くらいに出るらしい。
そして約10分後、おれは札幌行きの電車に乗った。10分間のたくさんの思い出を胸に、小樽を後にしたのだった。

札幌駅に着いた。今日二度目の札幌到着である。3時間前にいたところへ戻ってきた。たぶん3時間前にいたところだと思う。
地下鉄に乗り、あっさり家に着いた。30分かからなかった。地下鉄は速いなあ。て違うか。中央バスさんは悪くないですね。すいません。

青森から札幌へ。そして小樽をまわり再び札幌へ。こう聞くとちょっとした旅行のコースみたいだ。
どうだい、うらやましいかい。そうでもないか。 

寒い日の夢と魔法の王国レポート

ディズニーランドは夢と魔法の王国らしい。テレビでもそう言っているし、いろんなポスターやパンフレットにもそう書いてある。近所にいる猫もそう言ってた。
テレビのコマーシャルにはいつでも瞳を輝かせた子供が登場し、その子供を温かく見つめる親が現れる。ミッキーマウスの耳当てをつけた女子高生たちが笑顔でみんなでジャンプする。ディズニーランドに行けば、みんなそんな風になれるのですよ、と、そういうことを言っているのだと思う。

それならばと、寒い日に、はたしてディズニーランドに夢はあふれているのか、家族はコマーシャルのように温かい雰囲気でまわっているのか、ということを見に行ってきた。いやらしいね。
ちなみに、おれはディズニーが特別好きな人というより、ディズニー好きな人と行くディズニーが楽しい人、とそういう位置づけです。好きなキャラクターはムーミンリラックマとみんなのたー坊とかです。みんなのたー坊、あなたは知ってますか。

まわった日は12月の第2週の土曜日で、天気は雨、最低気温6度、最高気温10度、波の高さ0.5メートル、といった気象条件だ。波の高さはあまり関係ないか。なかなかに寒く、しかも雨だ。こんな状況下で、はたして夢と魔法はかかっているのか。

午後1時くらいにディズニーランドに着いた。
人が少ない。いくら寒いとはいえ土曜日は土曜日だ。もっと混んでいる状況を想像していたので、多少拍子抜けした感がある。
まずは、とりあえず何か乗り物に乗ることにする。空いている乗り物を求めて、しばらくディズニーランド内をさまよい歩く。寒さは悲鳴をあげるほどではないが、雨がさまよい歩く身に冷たく染みてくる。うう。

結局どの乗り物も30分以上の待ち時間が必要だったため、イッツ・ア・スモールワールドファストパスを取得し、先に食事をすることにした。ちなみにファストパスって、指定された時間内に行けば、その乗り物に普段よりも短い待ち時間で乗れますよ、という優先チケットのようなものだ。ムーミン好きだが、ディズニーにせっかく行くなら、と、前準備は一応していくのだった。

昼はハングリーベア・レストランでとることにした。はらぺこ熊のレストラン。熊だベアー。まあ、カレー屋だ。
実は、おれ、ここのカレーが好きなのだ。
この日は、レジの奥でカレーを作っている人が、レトルトの袋をぞんざいにゴミ袋に捨てている姿を目撃してしまったのだけど、それでもカレーはいつものおれの好きなカレーだった。よかったね。
ただ、この日のハングリーベア・レストランはいつもと少し様相が違った。昼時とはいえ尋常でないほど混んでいる。注文カウンターにたどり着くまで30分待ちだ。しかも、カレーを無事に受け取ったとしても、更にそこから席が空くまで待たなければならない。他の食事場所と比べて、割と空いている印象があったので、カレーで30分以上待ちは予想外だった。ディズニーランド内に入ったときに人が少なく感じたのは、単に、寒い外から温かい屋内へ人がみんな集まってしまっていたから。ただそれだけのことだったのだ。
カレーの列に並んでいる間、室内での食事を諦めた家族が外に出てくるのを見た。カレーの乗ったトレーを持ち、外に置いてあるテーブルにつく。10度弱の気温で、しかも雨の外だ。ジャンバーを着て、体を縮こませて、家族全員でカレーを会話なく黙々と食べる姿は、配給された食糧を食べている避難民を思わせた。雨のカレー屋に魔法はかかっていないようだった。

カレーを済ませ、ファストパスをとったイッツ・ア・スモールワールドをはじめとして、いくつか乗り物に乗っていった。ちなみに人気の乗り物のプーさんのハニーハント、バズのアストロブラスターは到着時点で既にファストパスもなくなっていたので諦めました。

イッツ・ア・スモールワールド
世界各地のそれぞれのイメージの衣装を着た人形たちが歌って踊る。それを見てまわる乗り物。ちょうどクリスマス期間の限定バージョンだった。屋内なので温かく、乗っている人は平和そうな感じだ。魔法はちゃんとかかっている印象。
白雪姫と七人のこびと
白雪毒りんご姫の話を見て回る乗り物。待っている間、隣に並んでいる小学生くらいの女の子たちが「これ、すぐ終わるんだよね」と言ったのが聞こえた。思わず「え、そうなの?」とその女の子に聞きそうになってしまったよ。実際に乗ってみると、その女の子の言うとおり、本当にすぐに終わった。体感だが1分くらいしか乗ってなかったんじゃないか。外で待ってる間は寒く、乗っている時間が短かったため、やや魔法は弱い。
・空とぶダンボ(見てただけ)
ダンボ型の乗り物に乗り、ぐるんぐるんと空を飛ぶ乗り物だ。カッパやジャンバーを着込んだ人たちがこれに乗ってぐるんぐるん回されている。何かの罰のようにしか見えない。飛行象寒中市中さらしの刑か。彼らはいったい何をしてしまって、飛行象に乗るはめになってしまったのだろうか。
ウエスタンリバー鉄道
蒸気機関車。おれ電車好き、ダカラ、コレ好キ。なんでカタコトなんだ。案内するお兄さんのにこやかな「雨で濡れてしまうことがありますのでご了承ください」の一言がいい。そう、電車とはいえ箱状ではなく屋根はあるがオープンなつくりなのだ。なので雨だと濡れる。問題は今日の雨、傘がない、君に逢いに行かなくちゃ。外なので寒いものは寒い。
ジャングルクルーズ
船、というかボートのようなもので密林の河を藤岡弘ばりに行く。ウエスタンリバー同様「濡れてしまうことがありますので、風邪をひかないようにしてください」の先導役のお兄さんのにこやかな一言がよい。お兄さんのトークに反応してずっと笑ってたおばさんが同じ船に乗っていたのだが、半分はそのおばさんの笑い声で楽しかったのかもしれない。ガイドがいる乗り物は、案内するお兄さんやお姉さんのキャラクターによっても楽しさが変わってくるなあ。ただやはり、藤岡弘でも寒いものは寒い。
ミッキーマウス・レビュー(調整中)
ディズニーのキャラのからくり人形が歌に合わせて動くのを見る小屋。寒さをしのぐのにはいいかな、と思って行ってみたのだが「調整中のため休み」の貼り紙が。ミッキーマウス・レビューの建物の軒先には、同じように雨をしのぐためにたくさんの人が集まっていた。中にはカッパやジャンバーにくるまってうずくまったり、横になっている人たちもいたりして、さながら難民避難所のようになっていた。魔法は全くかかっていない。この様子をテレビのコマーシャルで使ったらきっと募金や毛布の寄付が集まってしまうと思う。
カリブの海賊
海賊船に乗って呉軍に攻め込む乗り物。じゃないよ、三國志かよ。海賊の洞窟をまわる乗り物だ。ここは建物内で待てるので、寒さはない。したがって並んでいる人たちにそれほど悲壮感はなく、まあ、魔法はかかっていた。ちなみにカリブの海賊の一番前の列に座れました。ぼくはうれしかったしたのしかったです。なんでしょうがくせいのさくぶんみたいになるんだ。

そんな感じだ。
屋外の乗り物に乗っているときと、外で待っている間は寒く、ところどころで寒さに苦しむ民衆の姿も見かけられ、夢と魔法はあまり効いているとは言いがたい状況だった。
そういえば、いつもはディズニーランド内を練り歩いているキャラクターたちも、この日はあまり見かけなかったな。苦しむ民衆にすがられ、糾弾されるのを恐れたのだろうか。
「民衆にパンと毛布を」
「パンがなければお菓子をお食べ」
ああ、寒くて雨の日には民衆の声は届かないのじゃ、と村の長老の嘆きの声が聞こえてきそうな、そんなディズニーランドでした。

行くなら晴れた日にまた行ってみたいものだ。今度はたー坊にも会いたいぞ。あ、たー坊はディズニーシーにしかいないんだっけか。ん、どっちにもいないのか、そうか。


アトピーには竹せっけん、ときどき玄関に塩

アトピーとおれとのつきあいは生まれたときからだ。かれこれ30年以上。長い。
夏は暑さからくるほてりや汗のせいでかゆく、冬は乾燥でかさかさするせいでかゆく、それ以外の季節でもとにかくかゆく、なかなかにつらい。
しかも、「痛い」「苦しい」に比べて、「かゆい」は周りの人になかなかそのつらさをわかってもらいにくいのだ。それもまたつらい。

そんなアトピー持ちのおれにとって、大学生のときにすてきな出逢いがあったのだ。いい朝8時。あ、そういう番組があったのだよ、すてきな出逢いいい朝8時。
当時つきあっていた彼女が、ある日突然白いボトルをおれに渡してきたのだった。ボトルには竹せっけんと書いたラベルが貼ってある。

彼女は健康に自分なりのこだわりを持ってた人で、ヒバオイルからオリジナルの化粧水を作ったり、ごはんを炊くときににがりを入れてきたり、作った焼きうどんににがりを加えてきたり、みそ汁ににがりを入れてきたりと、「これがいい」というものは積極的に試しておれにもすすめてきた。にがりまみれだ。
また、彼女は風水にもはまっていて、自分の家だけじゃなくおれの部屋にまで盛り塩をしたり、馬蹄型のチャームを飾ったり、Dr.コパの本を置いてったりしていた。知らないうちに玄関に盛り塩がしてあって、部屋に帰ってきたおれがそれを蹴ってしまって豪快に塩を巻き散らかしたこともあった。まるで水戸泉でも来たかのような玄関。
いいか、当時の彼女と水戸泉の話は。

そんな彼女がおれにすすめてきたのが竹せっけんだった。

以来、おれが大学を卒業して青森を出て、社会人になってから今に至るまで、毎日の風呂タイムは竹せっけんのお世話になっている。
その彼女とは社会人1年目の初夏に別れが来たのだが、竹せっけんとのつきあいはまだ続いているのだ。思い出すとちょっと泣きそうだが続けます。

竹せっけんは、普通のせっけんやシャンプーみたいなシャボンのような香りはしないが、竹由来のなんとも言えないいい匂いがする。和を感じる。
また、化学物質は必要最低限しか使っていないので、肌に対する刺激は殆どない。ホテルに備え付けのシャンプーなどをうっかり使ってしまうと肌がピリピリしてしまうおれでも、竹せっけんなら使ってる最中も風呂からあがった後もまったくピリピリしないのだ。
それに竹せっけんは身体も頭も両方に使えるので、せっけんとシャンプーを揃えないとだめなのでは、みたいな心配もいらない。これ一本で解決である。ズバッと解決。

ただ、この竹せっけんはどこにでも売っているわけではない。
青森にあるアイセイサービスというところでしか手に入らない。
日常使っていて、いつも電話1本で注文しているので気にしていなかったが、調べてみたらホームページもなかったアイセイさん。
竹せっけんのボトルそのものに貼ってあるラベルが情報のすべてだ。潔い。

街中や電車で、アトピーがつらそうだな、と思う人を見かけることがあるが、おれは電車の中でいきなり「竹せっけんいいっすよ」とぐいぐい話しかけにいけるような豪傑ではない。
それにぐいぐい行って乗客トラブルだと思われて登戸駅あたりで降ろされても困ってしまうし。なんで南武線なんだ。
でもそのくらいすすめたい。
少しでも肌やかゆみのストレスに悩む人に知ってもらえればなあと。

もちろん、かかりつけの皮膚科を見つけて、正しく薬を使って、少しでも生活習慣を気にすることはもちろんで、その上でな。水戸泉との約束だ。

アイセイサービス
住所:東京都江戸川区篠崎町4-19-22-102
電話:090-6455-2564
※アイセイさんは青森から東京にお引越ししました

有名人を見た!!

テレビに出てる有名人に会ったことがある。 

札幌の円山の裏参道というところでは、夏に裏参道祭りという祭りが行われる。
中学生だったときのおれがこの祭りに行ったとき、普段テレビでしか見れない有名人を初めて見たのだ。
 
裏参道祭りのにぎやかな雰囲気の中、黄色の派手な服を着た芸人らしき男がおどけ、練り歩いていた。その黄色い芸人風男性は裏参道を歩く人の注目を集め、周りには人だかりができ、なかなかの人気者ぶりである。
その黄色い芸人風男性(長いなもう)は観客の中から一人のヤンキー風のお兄さんを指名し、二人でゴムの端と端をくわえて、パチンとする芸をやりだした。ヤンキー風のお兄さんがパッチンをくらい転がったところで、その黄色い芸人風男性(本当に長いなもう)の人気は最高潮を迎えた。
しかし、この黄色い人(もうこれでいいや)の天下はそこまでだった。
 
裏参道武蔵丸がやってきたのだ。 
観衆は武蔵丸に向かって大移動を始めた。さきほどパッチンをくらって転がっていたヤンキー風のお兄さんもすごい勢いで武蔵丸に向かって走っていった。
芸の途中だったのか、黄色い人は「おいこら、まだだ、待て!」とヤンキー風のお兄さんに叫んでいた。おれはそれが黄色い人のいろいろやってたことの中で一番おもしろかったんだけど。
それにしても武蔵丸は大きかった。すごかったよ。武蔵丸に人が一気に大移動する人気もすごかった。
あ、あの黄色い人は今何をしているのかも一応は気になる。売れていればいいなあ、と思う。 

おれが高校生のときには、遠足で行った札幌郊外の開拓の村で辰巳琢郎に会ったこともあった。あ、会った、というよりは見かけただけです。誇張が過ぎました。 
ドラマの撮影をしていた。たぶんサスペンス系のドラマだったと思う。
一緒に開拓の村を回っていた同じクラスの友人とおれは興奮した。
うおお、辰巳琢郎だ、うおおおお、興奮した。
二人で近くに行こう、ということになって、撮影中の辰巳琢郎の近くに行って「エーックス」と跳んでみたりした。 
後日、その辰巳琢郎出演のドラマを見てみた。開拓の村でのシーンも映っていた。おれと友達は映ってなかった。声も入ってない。まあ、映っててそれがきっかけでおれが犯人にでもされたら困るしね。
「このエーックスと叫ぶ声があなたの声紋と一致しました」と沢口靖子に言われて捕まってしまうのだ。うん、ドラマが違う。これは科捜研の女だ。

この前、辰巳琢郎に会った、と言っても、周りの同級生は「あ、そう」という反応ばかりだった。
辰巳琢郎って有名人ですよね。
おお、うらやましい、と思っている人、いますよね。もしいたら、自慢させてください。

水戸デビューは中井貴一

宇都宮から水戸へ転勤になった。茨城県水戸市
宇都宮に1年いないまま、また新しい土地へ行くことになってしまった。あ、気付いたのだけど、「茨城」と文字を打ちたいとき、「いばらき」と打っても「いばらぎ」と打っても、ちゃんとパソコンは「茨城」と変換してくれるのである。便利だねえ。でも正しくは「いばらき」なのでそこのところ頼むよ。うむ、話がそれました。

そういうわけで、宇都宮で送別会を開いてもらった後、隣国茨城へ旅立ったのである。すべてが急で慌ただしかったが、それも何とか落ち着いてきた頃、髪が伸びていることに気付いた。おれの髪がね、伸びてたの。
やはり新しい土地でのスタートはすっきりした髪で、ということで、床屋に行くことにした。
検討に検討を重ね、新居のアパートのすぐ隣にある床屋に行った。そこくらいしか見当たらなかったのだもの。

赤と青と白の床屋ポール(と呼ぶのかはわからないが)がぐるぐる回っていたので営業中だ。でも、中に誰もいない。昼時だからなあ、と思い、30分ほど時間をつぶして再び行くと、今度は中におっちゃんがいた。が、なぜかおっちゃんは白衣を着ている。
意を決して中に入って声をかけてみると、このおっちゃんが床屋だったのだ。
だいじょうぶか、と内心思いながら、床屋の椅子に座るのだった。この椅子をよく見ると、かなり年季が入っている。いや、椅子だけでなく、店自体がかなり年季が入っているのである。
おっちゃんが
「いやあ、戦後祖父が開業してから代々やっとります。わしが3代目ですじゃ」
とか言い出しそうな雰囲気である。言い出さなかったけど。
おっちゃん自身もかなり年季が入っている感じだ。

でも、腕は確かだった。白衣だったけれど、ちゃんと床屋だった。ただ、たまに迷うのである。はさみやくしなどを盆に乗せて並べているのだが、どれを使おうか、と、手にとったり戻したりして迷うのである。盆栽用のはさみとかが混ざってて迷ってたのならちょっとやだよ。髪の毛と松の枝とかと間違えていないことを祈るばかりである。
また、おれの髪の毛を切ろうとするときに、眉をひそめ、目を細めてじっと見るのである。テレビのお宝鑑定団の年配の方が、小さい鑑定品を見るときの目。あの目で、おれの髪の毛を見るのである。た、頼むよ、しっかりしてくれよ。それともおれの髪を鑑定してるのだろうか。アジエンスシャンプーのお姉さんみたいにきれいな髪だったら「いい仕事」なんだろうけど、おれはアジアンビューティーじゃないからね。これはどこにでもある偽物です、なんてね。なんで偽物なんだよ。髪の毛は一応本物です。
このおっちゃん、腕はいいが、少し強引だった。くしで髪をかき上げるときも少し力が強い。少し、痛い。あと、そういえば店の中に洗髪用の洗面台が見当たらないなあ、と思っていたのだが、おっちゃんはおれを普通の台所の流しのようなところに連れて行き、そこで髪を洗ったのである。食器も髪も洗えて便利なんじゃ、とか思っているんじゃないだろうな。シャンプーも実はチャーミーグリーンだったんじゃ、とか言うのはやめてくれよ。手には優しいけど、髪には悪いと思うよ。まあ、たぶんちゃんとしたシャンプーだったと思う。

そんなこんなで、カット終了である。鏡を見ると、きっちりぴかぴかな七三分けの人が映っていた。たぶんそれはおれです。誰かの髪型に似てるなあ、と思っていたら、中井貴一の髪型とそっくりだと気付いた。中井貴一といっても、映画「ビルマの竪琴」のときのじゃないよ、て、それは坊主頭だよ。ミスター・ミキプルーンのときの中井貴一だ。おっちゃんにとっては精一杯の「今の人」の髪型だったんだと思う。演歌の世界でなかっただけよかったと思う。

こうして水戸での新生活は、中井貴一の髪型で始まった。
気分も新たになったし、髪型以外は満足したのだった。
飴くれたし。

超透明・ドクター中松氏の政見放送

選挙の時期だ。あ、今ではなく当時の話、石原慎太郎が当選したときだ。
選挙の時には、候補者はさまざまな公約を挙げるのだが、たまに、なんだこりゃ、と耳を疑うような公約を掲げる人も中にはいらっしゃる。
沖縄県知事選挙で、他の候補者とその支持者に対して、「腹を切って死ぬべきである」と政見放送の中でのたまった又吉イエス氏なんて人がいた。
都知事選で、「夏休みの学習は有害、禁止」「ニシンを食べると怒らない」「母乳、牛乳、粉乳等、皆不可」など、摩訶不思議な公約を挙げた三井理峯氏なんて人もいた。
そういえば、青森の県知事だか市長だかの選挙で、「青森から雪をなくす」ことを公約に挙げていた人もいたが、あのときその人が当選していたら、今頃本当に雪がなくなっていたのだろうか。
なんだか呪術師を選んでるみたいだ。選挙は奥が深い。

そして、このときの都知事選でもなかなかにすごい公約を挙げた候補者がいた。それがドクター中松氏である。
あのぴょんぴょん跳ねるホッピングシューズを発明したドクター中松氏である。

都知事をどうやって選びますか」
政見放送が始まって、いきなりドクター中松氏に質問を投げかけられる。いや、先見性と公約ですかねえ、なんて答えても、別にドクター中松氏がそれに答えてくれることはない。中松氏の一方的な投げかけだ。
そのまま中松氏はやはり勝手に話を続けるのだった。
中松氏によると、都知事になるのに必要な5つの要素があるらしい。
「第一に、世界が注目してる人、世界を注目してる人」
「第二に、東京に先祖代々いる人」
「第三に、能力のある人」
「第四に、しがらみのない人」
「第五に、勤勉な人」
この5点らしい。といっても中松氏が勝手に作った5点なのだけど。中松氏がこの5点について他の候補者を、「チェックした結果、どうも合格しませんので立候補しました」ということだ。勝手に当てはめられて勝手に不合格にされてる他の候補者の心境はいかに。
どうでもいいが、ここでカメラがドクター氏に寄っていった。画面に徐々にアップに映し出されていくドクター氏。そのカメラワークに意味はあるのか。

次に、ドクター氏は例の5つの要素を自分に当てはめだすのである。
「ハリウッドにドクター中松ストーリーができます」「アメリカの17の都市にドクター中松デーがあります」「アメリカの科学学会で、歴史に残る5人の科学者に選ばれています」と、次々に自慢を始めるドクター氏。
しかも、どれもよく意味がわからない。中松ストーリーって何だよ。それとも中松ストリート、って言ったのかな、どっちにしろよくわからない。
アルキメデスキュリー夫人、ファラデー、テスラー、そしてドクター中松」と歴史に残る5人の科学者の名前をあげ、肩を並べていると言い出す中松氏。まあ、いろいろ突っ込みたいことはあるのだが、アルキメデスキュリー夫人が認めてるならいいか。でも、たぶん知らないうちに勝手に並ばれてるんだろうな。
よって、「第一関門は通過でございます」ということだ。勝手に関門を作り、勝手に通過していくドクター氏。
「先祖代々、旗本として400年間東京にいる」ので、「第二関門も通過」と、次の関門も楽々通過していった。いいぞ、ドクター氏。
そして。
「能力とは政治を発明する能力」で、「私がそれをできるのは皆さんご存知かと思います」。おおお、政治を発明する能力だ。しかも、「皆さんご存知」だそうだ。もう、ここまで来たら突っ込んではいけない。そして当然のように、「第三関門も通過」。
「しがらみのない人。私は官、政党、組合、財界、どれとも関係がない。透明度です。超透明です。スーパートランスペアレンスです」と、熱を帯びてくるドクター氏。もはやおれには何を言っているのかわからない。スーパートランスペアレンスだ。超透明中松氏。あられもない姿のスケスケドクター氏。
この辺で、またカメラがドクター氏に寄りだす。だから、その演出は何。
「私は小学校から東大まで無遅刻無欠席でした。こういう勤勉な人が都政を行うと皆さん安心でございましょ」。もうどこがおかしいとか、よく分からなくなってきた。完全にドクターワールドに引き込まれてしまっている。ございましょ。
めでたく5つの関門をすべて突破したドクター氏。おめでとうございます。

5つの要素についてのドクター氏の話が終わり、一安心といったところだが、まだドクター氏は続けるのだ。もういいよ。
北朝鮮テポドンを東京に撃ちますよ」と、ドクター氏は言い切るのだった。いいの、言い切っちゃって。ただ、「テポドン対策は、ミサイルをUターンする私の発明で可能であります」と、絶対の自信だ。身振り手振りの大きさもクライマックスに達してきた。
そして、中松氏はようやく話を締めはじめた。
「東京を、世界の人があこがれる、愛と、それと、楽しい東京」
と、ここでぶつりと画面が切り替わり、ドクター氏の姿が消えた。おれはやっと超透明ドクター中松ワールドから現実の世界に帰ってこれたのだ。よかった。
あまりに唐突な幕切れ、あまりに内容の濃すぎる5分間に、おれはしばし呆然とするのだった。

今のご時世、ドクター氏ならコロナウイルスもUターンしてくれるかもしれない。
よし、次の都政はドクター中松氏に任せた。
おれ、都民じゃないし。